2009年05月20日
10・19 その2
当時の野球規則である「ダブルヘッダー第1戦は9回まで、延長戦はなし」というプレッシャーを跳ね除け、近鉄バファローズは4-3で逆転勝利を収めた。そして20分間の休憩を挟み、先発投手オリオンズ・園田一美、バファローズ高柳出己がコールされ、午後6時44分に第2試合目が開始された。
2回裏、「おさかな加えたドラ猫~♪」の応援歌をバックにマドロックがレフトスタンドへホームランを放ち、第1試合目に続きオリオンズが先制。その後、こう着状態が続いたが、6回表、バファローズはオグリビーのタイムリーで同点に追いつく。
そして、7回表、吹石 徳一が園川の変化球を捕らえ、左中間スタンドぎりぎりに入る逆転の2号ソロホームランを放った。そして、これが彼のプロ野球生活最後のホームランとなったのである。
彼はこの年3回の2軍落ちを経験、この年限りで戦力外を通告される思いを持っていたそうなのだが、終盤に入り、連戦に次ぐ連戦でけが人が続出し、(因みにこの年のバファローズは10月7日以降、13日で15試合という強硬スケジュールが敷かれた)急遽1軍へ呼ばれた。
そして、優勝が掛かった大一番での殊勲打。これまで14年間、常に「影でチームを支えた」選手のホームランに選手のみならず、この試合の実況を務められたABC(朝日放送)の安部憲幸氏も涙を流してたのをテレビを通じ痛切に感じ取った。
その一打でバファローズ打線に火がつき、続く真喜志康永もライトスタンドへ運ぶソロホームランでオリオンズに2点をリードし、逆転優勝がいよいよ目の前に見えてきた。
しかし、前日までバファローズに8連敗を喫してたオリオンズも意地を見せ2点を返し、すかさず同点に追いついた。
そして、午後9時を過ぎた8回表あたりから、テレビ朝日系列は放送を予定していた「さすらい刑事 旅情編」を急遽中止し、CMなしでこの試合の模様を放送。その直後、シーズン途中からバファローズに入団したラルフ ブライアントの34号ソロでバファローズは再び勝ち越し。そして、バファローズはその裏から満を持してエース阿波野 秀幸を投入。3番打者、愛甲 猛を打ち取り、次の打者、高沢 秀昭がバッターボックスに立った。
実は高沢選手、この年のパリーグ首位打者が掛かってたのですが、第1試合は3打数ノーヒット。この試合も2打席までノーヒット。もし第3打席も凡打であれば、打率2位の松永選手(阪急ブレーブス:当時)に抜かれ、この回のバッターボックスは無かったのであったが、詰まりながらもレフト前へ運び、この回も打席に立つことが出来たのである。「この回も打席に当てる」安堵感があったのか、リラックスした状態でバッターボックスに入った。そしてカウント1-1からの3球目、阿波野投手のシンカーを捕らえた。打球はライナーでレフトスタンドへ飛んでいくホームランで、再び4-4の同点に追いついた。
そして、9回表、バファローズは得点圏にランナーを進めるもオリオンズの好捕に阻まれ無得点で終了。この時点で、時刻は午後10時を過ぎていた。テレビ朝日は、「さすらい刑事 旅情編」の放送中止に続き、久米宏氏がキャスターとして放送されている「ニュースステーション」の時間枠でも引き続き、野球中継を続行した。
試合は9回裏に入り、オリオンズは古川のヒット、続く袴田の送りバントを阿波野と梨田がゆずりあった挙句、阿波野は足がもつれて尻餅。ノーアウト1、2塁の大ピンチ。だが、その直後、阿波野から大石へ牽制球が渡り、ランナー古川がタッチアウト。しかし、セカンドベースカバーに入った大石 大二郎選手がランナーを押出したように見えた。すかさずオリオンズ監督、有藤道世は「今のは守備妨害だろー?」と猛抗議。バファローズファンからは「早く引き下がれぇ~」と猛烈なブーイングを浴びせたのである。抗議は10分に及んだが、判定は覆らず試合は続行。その後、第1戦に続き、9回2アウト満塁のピンチを迎えるが、阿波野は愛甲をレフトフライに抑え、延長戦を迎えた。
しかし、この時点で時刻は10時半を過ぎ、事実上、延長10回の攻防が「最終回」となったのである。(試合開始が午後6時44分、当時、公式戦は延長12回、または試合時間が4時間を超えた場合は新しいイニングに進められない規則となっていた)
先頭打者ブライアントがエラーで出塁、この時はまだ勝利の女神はバファローズを見放してはいないように思えたのだが、終わりはあまりにもあっけなくやってきた。オグリビー三振で1アウト。続く5番・羽田耕一が放った打球は無情にもセカンド森田の正面をつき、自らセカンドベースを踏んで2アウト、そしてボールは1塁手のミットに納まり、併殺完成。この瞬間バファローズの優勝は事実上消えた。
その裏、バファローズナインは無情とも言えるたった1イニングの「消化試合」の屈辱を味わった。しかし、球場まで足を運んだファンの為最後まで試合を捨てず、試合は4-4の引分で終了。パリーグのリーグ優勝は西武ライオンズに決定した。
この試合はプロ野球ファンの熱狂的な支持を受け、この日のニュースステーションは関東地区で30%、そして関西地区では実に46%を記録。大げさに言えば、日本国民の2人に1人の割合でこの試合の中継をご覧になった計算になる。
過密日程の中、死力を尽くして戦ったバファローズナイン。最下位とは言え、プロとしての意地を見せたオリオンズナイン。急遽生中継を決断し、最後まで放映してくれたテレビ朝日。試合終了後、メガホン一つ投げ入れることなく、仰木監督、バファローズナインをたたえた素晴らしいマナーのバファローズファン。そしてテレビやラジオの前で手に汗をにぎりながら試合の行方を見守った何千万の視聴者、聴視者の方たち。
「10・19」は、彼らによって、不朽の『名作』となった。
この年は、ソウルオリンピック、昭和天皇の吐血、リクルート疑惑等、大きな出来事が幾つもあったわけだが、この試合のダイジェストは、ニュースステーションの「年末特集」でも取り上げられた。
そして翌年、バファローズはライオンズ、ブルーウェイブの三つ巴を戦い抜いて、リーグ優勝を成し遂げたことを付け加えておこう。
10・19・・・これにて終焉。
投稿者 shinorar : 2009年05月20日 01:54
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